「人と空間が生きる音デザイン」と11次元の果てに

ネミーの企業理念である「新しい快適空間を創造する」とはどういうことなのだろうか?

古代ギリシャには現代のような「空間」という概念がなく、アリストテレスは個々の物体に固有の場所(トポス)があると考えた。

デカルトも空間とは物体が占めている場所そのものだと考えたが、それでは物体が無くなった後の空間は消えてなくなってしまう。そこで目に見えない微細な物質によってとって変わられるというエクスキューズを付けた。

敬虔なキリスト教徒であったニュートンは、デカルト説は神を冒涜していると批判。空間は神が創造したのであり、万物を創造する器として必要とされたからと主張する。

ニュートンにとって空間とは、個々の物質とは別にそれ自体として自存している「絶対空間」であった。空間を3次元のユークリッド空間(3方向に無限に拡がるもの)とする数学を用いてニュートン力学体系を構築。ニュートン力学(古典物理学)の登場により、正しい初期値さえわかれば、神でなくとも方程式を使えば未来を含む宇宙の全運動までも確定的に知りえるということになってしまった。

このニュートンの「絶対空間」はライプニッツによる批判の対象となった。ライプニッツは、空間とは諸物の関係であり、空間の存在は、その中の諸物の関係を、幾何学などにより合理的に説明できれば証明される「相対空間」とした。

カントもまたデカルトやニュートンの説を「空間を物自体との関連において、すなわち物自体が存在するための条件として考えている」と批判している。そして、ニュートン的な「絶対空間」説と、ライプニッツ的な「相対空間(事物の秩序)」説という、対立する両方の説をアウフヘーベンするような形で「空間とは客観的な実在なのではなく、対象を認識するための主観的な形式」だと主張した。

こうしてカントは、ニュートン力学(古典物理学)の「絶対空間」の絶対座標から、アインシュタインの特殊相対性理論と一般相対性理論(現代物理学)に対する道を創った。

アインシュタインの特殊相対性理論では、空間と時間を時空間(ミンコフスキー時空)という一体のものとして扱い、さらに一般相対性理論では、質量は時空間を歪ませるという4次元リーマン空間として扱われている。

そして、一般相対性理論と量子力学の統一という物理学の試みとして20世紀後半に発展した超弦理論では空間は9次元だとされている。この超弦理論の9次元は、弦と弦の間に働く力が強くなった特殊な場合には、次元が1つ増えて10次元になる。そして空間の10次元に時間の1次元を加えると11次元の時空間になるのが最新の「空間」だという。

日々、自問自答し続ける中で『人と空間が生きる音デザイン』(小松正史著)に出会った。

本書では、小松正史氏が手掛けた音環境デザインの仕事事例が紹介されている。これまで空間を観念的に捉えていたが、音をデザインすることで空間を変えることができるという方法論には目から鱗。音のフィールドワークを行い、「もっと静かだったら安らぐのに」「わたしは静かすぎて落ち着かない」といった環境音をコントロールすることで、空間の居心地、快適さを大幅に改善していくのである。

ネミーの企業理念である「新しい快適空間を創造する」というのも大儀なことではなく、日常空間をちょっとだけ豊かにするような創意工夫の積み重ねなのかもしれない。


「人と空間が生きる音デザイン」(小松正史・著)

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